野球肩の概要
野球肩は、野球選手(特にピッチャー)がボールを繰り返し投げる動作によって、肩関節およびその周囲の筋肉・腱・靱帯に過剰な負担がかかり、痛みや不調を引き起こす疾患の総称です。
この疾患はスポーツ障害の一つで、特にオーバーヘッドスロー(上からの投げ方)を多用する競技者に多く見られます。
テニス選手が肘を痛めればテニス肘、ゴルフ選手が肘を痛めたらゴルフ肘と言われるように、野球選手が肩を痛めたら野球肩と呼ばれるだけで、実際には損傷が疑われる場所や症状により診断名があります。
野球肩の主な種類と症状
野球肩はあくまでも総称であり、具体的な診断名は以下のようなものが挙げられます。
肩関節インピンジメント症候群
- 病態・特徴:
肩を上げる動作の際、肩関節周囲の筋肉や腱、骨などの軟部組織が互いにぶつかり合い(衝突し)、摩擦が起こることで炎症や痛みを引き起こす症候群です。投球動作や水泳、バレー、テニスなど、肩を繰り返し使う競技に多く見られます。 - 原因・発症メカニズム:
肩関節の構造的な狭さや、姿勢不良、筋肉のアンバランス、過使用によって、肩峰と腱板(特に棘上筋)との間が狭まり、挟み込まれるような状態になることで発症します。 - 症状:
肩を挙げる途中で痛みが強くなる「ペインフルアークサイン」が代表的で、特に90度付近で痛みが集中します。夜間痛を訴えることもあり、悪化すると日常生活の動作にも支障を来すことがあります。
腱板損傷(ローテーターカフ損傷)
- 病態・特徴:
肩関節の安定性を保つ4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)を合わせて腱板(ローテーターカフ)と呼びますが、これらの筋肉や腱が部分的、あるいは完全に断裂してしまうのが腱板損傷です。 - 原因・発症メカニズム:
加齢に伴う変性や、反復する投球、転倒などの外傷が原因となる場合があります。特に野球やテニス、重量挙げなど肩に負担がかかる動作を頻繁に行う人に多いです。 - 症状:
腕を上げたり回したりする際に痛みが生じるほか、腕が上がらなくなる、筋力が低下するといった運動障害が見られます。夜間の痛みも強く、睡眠を妨げることもあります。
上腕骨骨端線障害(リトルリーグショルダー)
- 病態・特徴:
成長期の子どもに特有の障害で、上腕骨近位部の骨端線(成長軟骨)が繰り返しの投球動作により損傷を受け、成長に悪影響を及ぼすことがあります。「リトルリーグショルダー」とも呼ばれます。 - 原因・発症メカニズム:
未成熟な骨端線は衝撃に弱く、投球による捻転力や引っ張りの力が成長軟骨に繰り返しかかることで、剥離や分離が生じます。特に過度な投球数やフォーム不良がリスクとなります。 - 症状:
肩の前面や外側に鈍い痛みを訴え、投球動作時に痛みが強くなります。肩の可動域は制限されることが少なく、見た目には異常がわかりにくいため、見逃されやすい点に注意が必要です。
動揺性肩関節症(ルーズショルダー)
- 病態・特徴:
肩関節に不安定感があり、特に明らかな脱臼や損傷がないにもかかわらず、痛みや違和感、筋力低下などがみられる症候群です。ルーズショルダー(loose shoulder)とも呼ばれます。 - 原因・発症メカニズム:
生まれつき関節が柔らかい人や、繰り返し肩が部分的に外れるような動作(サブリュクゼーション)を繰り返すことで、関節包や靱帯が緩み、関節の不安定性が高まることによって発症します。 - 症状:
肩が抜けるような感じ(不安定感)や、関節の動きに合わせてズレるような感覚があり、投球や振り上げる動作で痛みが生じます。反復性脱臼に移行する場合もあります。
肩甲上神経損傷
- 病態・特徴:
肩甲骨上部を走る肩甲上神経が、外傷や反復的な肩の動きによって圧迫または伸張されることで損傷し、支配筋(棘上筋・棘下筋)の機能に障害が出る状態です。 - 原因・発症メカニズム:
投球やスパイク動作などで肩関節が過度に外旋・外転されたとき、肩甲切痕部で神経が牽引されたり、靱帯に圧迫されることで発症します。慢性的なストレスでも損傷に至ることがあります。 - 症状:
肩の外側に重だるさや脱力感を感じることがあり、筋力低下によって投球フォームが崩れる場合もあります。痛みよりも「重い」「力が入らない」といった感覚が前面に出るのが特徴です。
上方関節唇損傷(SLAP損傷)
- 病態・特徴:
肩関節内の関節唇(軟骨の縁取り部分)の上方部に断裂や損傷が起こる障害で、特に上腕二頭筋の長頭腱が関与する部分(上方関節唇)に発生するため、SLAP(Superior Labrum from Anterior to Posterior)損傷と呼ばれます。 - 原因・発症メカニズム:
投球時の「腕を引き上げる動作」や「リリースの加速」で上腕二頭筋長頭腱が引っ張られることで、関節唇が裂けるように損傷します。転倒による手のつき方が原因になることもあります。 - 症状:
肩の奥に刺すような痛み、ひっかかり感、クリック音(関節音)などが生じ、投球時や腕を挙げたときに特に痛みが強く出ます。重度の場合は力が入らず投球が困難になります。
上腕二頭筋長頭腱炎
- 病態・特徴:
肩関節の前方を通る上腕二頭筋の長頭腱が、反復動作や衝撃により炎症を起こすことで発症する障害です。腱炎の一種で、肩の前面痛の主な原因の一つです。 - 原因・発症メカニズム:
長頭腱は上腕骨結節間溝という溝を通る構造上、摩擦を受けやすく、投球などで繰り返し使われると炎症が起きやすくなります。また、関節唇損傷や腱板損傷と併発するケースもあります。 - 症状:
肩の前側に鋭い痛みが出たり、腕を上げると腱が引っ張られるような痛みがあります。慢性化すると腱の断裂に進行することもあるため、早期対応が望まれます。
いろいろな診断名はありますが、当院の考えとしては「どうすると痛いか」が重要であり、その痛みを施術で取るだけです。整形外科や他院での診断名は参考程度にしております。
野球肩の診断
一般的に野球肩の診断ではレントゲンが用いられます。
しかし、レントゲンは骨折やヒビを確認するもので、筋肉や腱、靭帯の損傷は写りません。
なので、レントゲンだけで「損傷」と診断を受けているなら疑問を持っていただいても良いかもしれません。
実際に骨折や骨にヒビがあれば、激痛や内出血を伴うなどの症状があるので、問診や動作確認時に分かります。
骨折がなければ筋肉や腱、靭帯が原因ですので施術で治ります。
原因と治療のポイント
上記にある通り、野球肩と言っても症状(診断名)は千差万別です。
本当に損傷している場合は安静で自然治癒を待つしかありませんが、多くの野球肩は筋肉や靭帯の異常が原因のため、施術で積極的に改善できます。
治療ポイントの一つは、肩の外転・外旋の動きに関係する筋肉(棘上筋や棘下筋など)の調整です。
具体的には筋肉の付着部、そこを緩めるだけでかなりの改善が見込まれます。
ポイントはそこだけではありませんので、患者さんに合わせたオーダーメイド施術で完治改善させていきます。
手術について
ほとんどの野球肩は施術で完治可能です。
安易に手術を選択すると取り返しがつかないケースもあります。
一度メスを入れた体は元に戻りません。
野球肩で手術を考える前に、まずは適切な施術を検討することをお勧めします。
まとめ
野球肩は子供から大人まで野球をする限り誰にでも起こりえます。
何度でも申し上げますが、当院は病名や診断名にとらわれることなく「こうすると肩が痛い」つまり原因はココ、といった感じで肩の痛みを取るだけです。
骨折やヒビがなければ、筋・腱・靭帯の調整で野球肩は改善・完治が可能です。
スポーツをお休みし長期安静を指示されている方や手術を勧められている方は、一度セカンドオピニオンをお勧めします。