概要
野球肘とは、野球選手が「ボールを投げる」という動作を繰り返すことで、肘の内側や外側に痛みが出る症状の総称です。
特に痛みが出るのは、上腕骨の内側上顆(ないそくじょうか)と呼ばれる部位。
ここに痛みを感じて医療機関や接骨院を受診すると、多くの場合「野球肘」と診断されます。
テニスをしている人が肘を痛めると「テニス肘」と呼ばれるように、野球をしている人の肘が痛いから「野球肘」と診断されています。
野球肘の種類
野球肘は総称で、実際には損傷している部位などによって診断名があります。
肘の内側の痛み
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)
- 病態・特徴:
手首を掌側に曲げる動作を担う筋肉や腱の付着部に炎症や過負荷が生じ、肘の内側に痛みを引き起こす障害です。俗に「ゴルフ肘」とも呼ばれることがあります。 - 原因・発症メカニズム:
投球時に繰り返される手首の屈曲動作が、前腕屈筋群に過剰な負担をかけ、その付着部である内側上顆にストレスを集中させることで発症します。 - 症状:
肘の内側を押すと痛む、物を持ったときに肘が痛む、手首を曲げると痛むなど、動作時に特有の痛みが現れます。
画像引用元:上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)とは – 岐阜市 – 森整形外科リハビリクリニック
上腕骨内側上顆障害(リトルリーグ肘)
- 病態・特徴:成長期の子どもに多く見られる障害で、肘の内側に存在する成長軟骨や骨の接合部に慢性的な負荷がかかることで生じます。
- 原因・発症メカニズム:
骨が未成熟な段階で投球を繰り返すことで、内側上顆の骨や軟骨に過度の引っ張りが加わり、炎症や変形を招きます。 - 症状:
投球中あるいは投球後に肘の内側が痛む。成長期の選手に特有で、放置すると骨変形や離断など重篤化することもあります。
画像引用元:野球肘(やきゅうひじ) | 診療科・診療センター | 名鉄病院
上腕骨内側上顆裂離
- 病態・特徴:
肘の内側にある成長軟骨や骨が、筋肉に引っ張られることによって剥がれてしまう障害です。 - 原因・発症メカニズム:
急激な投球や繰り返しの力強い動作により、内側上顆に付着する筋肉が骨を引きはがしてしまうことが発端です。 - 症状:
肘の内側に鋭い痛みが走り、特に投球動作で痛みが強くなる。骨の剥離がレントゲンで確認される場合もあります。
画像引用元:上腕骨内側上顆裂離 | がんばるわが子に10分ケア。パパママトレーナー
上腕骨内側上顆骨端閉鎖不全
- 病態・特徴:
成長期にある骨端部が、本来は癒合するべき時期に癒合しきれず、その隙間が残ったままになる状態です。 - 原因・発症メカニズム:
繰り返される投球のストレスが、成長軟骨に負担をかけることで癒合が遅れ、痛みや可動域制限の原因になります。 - 症状:
慢性的な内側の痛みが続き、特に成長期後半で痛みが引かない場合には注意が必要です。
上腕骨内側上顆骨端線離開
- 病態・特徴:
骨端線(成長軟骨)が投球動作中の外力によって急激に剥がれてしまう、急性の成長障害です。 - 原因・発症メカニズム:
強い投球動作によって、内側に付着する筋肉が成長軟骨を引きはがすことで発症します。 - 症状:
「投げた瞬間」に鋭い痛みが走る。急性の痛みとして自覚されることが多く、動作の再開には慎重な判断が求められます。
肘内側側副靭帯損傷(肘MCL損傷)
- 病態・特徴:
肘の内側を関節をまたぐように支える内側側副靱帯が損傷し、安定性が失われた状態です。 - 原因・発症メカニズム:
長期間にわたって繰り返される投球動作が靱帯に伸張ストレスを与え続けることで、靱帯に微小損傷や断裂が生じます。 - 症状:
肘の内側に不安定感と痛みがあり、重度になると靱帯再建手術(トミー・ジョン手術)が検討されることもあります。
画像引用元:内側側副靱帯損傷 – McDavid|サポータ-ブランドのマクダビッド
肘の外側の痛み
離断性骨軟骨炎(上腕骨小頭障害)
- 病態・特徴:
上腕骨の外側(小頭)にある軟骨が、骨との接合部から剥がれてしまう状態で、関節内に遊離体(関節ネズミ)が生じることもあります。 - 原因・発症メカニズム:
投球時に肘関節外側にかかる圧縮力が、軟骨と骨の接合部に過剰なストレスをかけて剥離させることが主な要因です。 - 症状:
投球時の外側痛に加え、肘の引っかかり感や可動域制限を伴うことが多く、進行するとロッキング現象が出現することもあります。
棚障害(滑膜ひだ障害)
- 病態・特徴:
肘関節内の滑膜と呼ばれる膜が肥厚し、関節内で引っかかったり、骨とこすれ合うことで痛みを引き起こす障害です。 - 原因・発症メカニズム:
繰り返しの屈伸動作により滑膜が刺激されて肥厚し、それが関節のすき間に挟まるような状態になります。 - 症状:
肘を伸ばしきれなかったり、曲げ伸ばしの途中で「引っかかる感じ」が出る。痛みだけでなく、腫れや違和感を伴うこともあります。
肘頭骨端閉鎖不全
- 病態・特徴:
肘の後方にある「肘頭(ちゅうとう)」部分の骨端線が成長期に癒合しきれず、分離状態が続く障害です。 - 原因・発症メカニズム:
投球による伸展動作の繰り返しで肘頭に衝突ストレスがかかり続けることで、癒合不全に陥ります。 - 症状:
投球時の後方痛や違和感、衝突音などを伴うことがあり、疲労骨折と混同されることもあります。
肘頭疲労骨折
- 病態・特徴:
肘頭部の骨が繰り返される投球の衝撃で小さな損傷を積み重ねた結果、亀裂や疲労骨折に至る障害です。 - 原因・発症メカニズム:
特に投球終末期の「肘の伸展」で肘頭が上腕骨にぶつかるような動きが繰り返されることにより生じます。 - 症状:
肘後方の鈍痛、投球後の違和感、痛みが強まると完全に投球が困難になることもあります。
画像引用元:肘頭部疲労骨折|札幌スポーツクリニック|札幌市中央区の整形外科・内科・リハビリ科
肘頭骨棘骨折
- 病態・特徴:
肘の後ろに生じた「骨棘(こつきょく)」と呼ばれる余分な骨が、投球の衝撃で骨折することで発症する障害です。 - 原因・発症メカニズム:
長期間にわたり骨同士の衝突が繰り返されることで、骨が過剰に再形成されてトゲ状になり、それが骨折することで痛みが発生します。 - 症状:
肘の後ろに突発的な強い痛みが走り、曲げ伸ばしのたびに引っかかる感じや可動域制限が出現することがあります。
診断名はいろいろとありますが、整形外科や他院での診断名は参考程度にしております。当院の考えでは「どうすると痛いか」が重要であり、その痛みを施術で取るだけです。
野球肩の診断
野球肘の症状としては、投球時あるいは投球直後の痛みが顕著で、肘の可動域が制限されたり、急性の場合は突然肘が動かせなくなることもあります。
肘は構造が複雑であるため、損傷部位によって痛みの出る場所も内側、外側、後方など様々です。
診断には問診や動作テスト、整形外科ならレントゲンが使われます。
レントゲンは骨折の有無を確認するためのものであり、明らかな骨の損傷が疑われる場合でなければ不要です。
整形外科でレントゲンを撮り、疲労骨折と診断を受けてご来院いただく患者さんが多くいらっしゃいますが、当院の経験上、疲労骨折は骨に異常はありません。
実際に施術で治ります。
もちろん骨をくっつけた訳ではありません。
つまり、そもそも疲労骨折などどいう骨折はしていなかったという事です。
原因と治療のポイント
野球肘の原因としてよく挙げられるのが、前腕にある「長橈側手根屈筋」などの屈筋群の硬さです。
投球によってこの筋肉に負担がかかり、それが肘の内側を引っ張ることで痛みが生じると説明されます。
確かに理屈としては理解しやすいのですが、実際の臨床では施術してもほとんど効果がありません。
当院では、野球肘の痛みの原因は肘ではなく、肩や手首にあると考えています。
肩や手首に硬さや不調があると、その代償として肘に過剰な負担がかかり、結果として痛みを発症するのです。
したがって、前腕の筋肉だけにアプローチするのではなく、肩や手首、場合によっては上腕三頭筋なども含めて全身に施術を行うことが重要です。
また「炎症」と診断されても、実際に炎症が起きていれば安静が必要であり、1回の施術で痛みが取れるはずがありません。
にもかかわらず改善するということは、「○○炎」という診断名が付いていても、実際には炎症していないという事です。
炎症の他にも剥離や分離、不全や損傷、疲労骨折など、聞けば身震いしそうな恐ろしい言葉が並びますが、痛みの原因が別にあることは良くあります。
例えば、分離していても痛みのある人と無い人がいます。
分離が原因なら分離してる人は全員痛いはずです。
つまり、分離は痛みの直接的な原因ではないという事です。
手術
野球肘の治療については、「手術を勧められた」と相談に来られる方も多いですが、重度の骨折など明確な損傷がない限り、基本的に手術は必要ありません。
子供なら最短一回で完治させています。
まとめ
野球肘は、年齢やレベルを問わず野球をしていれば誰でも発症する可能性のある疾患です。
一般的な治療として指示されるのが安静、湿布、テーピングや固定などですが、これはあくまで自然治癒を待つ対処療法です。
野球肘は正しく調整すれば、手術なし安静なしで治すことが可能です。
本当に炎症が原因であれば数日で治るはずですが、それ以上続くようであれば、その治療方針は間違っている可能性があります。
もし現在お通いの治療院に不安があるようでしたら、セカンドオピニオンをお勧めします。